店舗や住居で木を使った意匠は格段に増えた。その多くが導くのは視覚だが、加藤哲建築事務所の家の木づかいは触覚に訴える。稚拙な文では伝えきれずにもどかしいが、そこかしこで面取りされ多面となった木部がただそっとある。触れる手を想像しながら丁寧に角を取られた手すりや収納家具のそれぞれは、言葉少なに、しかし大きな熱量を持って指先に素材の魅力とつくり手の温度を伝える。木の持つ美点のひとつ、触れた時のあたたかみを大切にしたものづくり。そんな細部の集合が生み出す、おおらかな家の威厳を持ちながら、昨今の厳しい自然環境から守る住宅性能の面においても一流の気づかいがある。基準を大きく上回る高い断熱性能で、アップダウンの激しい外気に影響されない外皮をつくり、季節に合わせて日差しを取捨選択できる外付けブラインドと蓄熱壁など、自然の恩恵を最大で活用する仕掛けがめぐらされている。この性能は普段の暮らしを快適にすることはもちろん、もしもの時のシェルター機能にもつながる。
厳しい暑さ寒さへの対策はもちろん、想定外の自然災害が頻発し、それが繰り返される今、防災・減災への配慮も住まいづくりに欠かせない視点となった。いざという時のために、復旧までを乗り切る備えがあることで、災害から受けるストレスの差は大きい。レジリエンスの観点から、この住まいに付加されている備えを挙げてみよう。まずは水。屋根から雨どいを利用してタンクに雨水を常備し、水洗トイレの流水を20回分までカバー。レインセラーとして非常時以外の庭の水やりや外まわりの掃除にも使用できる。そして電気。太陽光発電システムからの電力をリチウム電池ユニットに蓄え、冷蔵庫や照明など使用する機器を選んで必要最低限を供給。外部物置にはバックアップ用の蓄電池があり二重の備えとなっている。室内インテリアのレンガやエコカラット張りの壁は蓄熱体を兼ね、冬に電力が途絶えてもすぐに冷え込まない建築面の配慮も。我が家がプライベートな避難所として機能する徹底した安心設計で、有事を無事に過ごす。
敷地面積 167.24㎡(約50.59坪)
延床面積 114.68㎡(約34.62坪)
1階面積 73.01㎡(約22.04坪)
2階面積 41.67㎡(約12.58坪)
内ガレージ 15.45㎡(約4.67坪)
外物置 4.96㎡(約1.50坪)